スギハウス

住宅
スギハウス

住宅における新しさとは、強い形式や特異な構成によって与えられるものではなく、日常の中にわずかに差し込まれる空間の差異によって、静かに立ち上がるものではないかと考えた。

敷地は参道に面し、都市の生活動線と聖性が重なり合う場所にある。この特性を直接的に表現するのではなく、張り出した軒下を計画することで街路から玄関、室内へと至る領域が段階的に変化する構成とした。住まいへの出入りそのものが、小さな移ろいを伴う体験となり、日常の中に潜在する豊かさを静かに顕在化させる。

建物は敷地形状に沿った南北に長い切妻ボリュームとし、周辺環境に呼応する普遍的な形式を採用している。一方で、上階を持ち上げる構成とすることで、足元に半屋外的な領域を生み出し、街との関係にわずかな距離と奥行きを与えた。杉板張りの外壁は時間とともに風景へと馴染みながらも、個の存在を穏やかに保ち続ける。

内部構成は、周囲を住宅に囲まれた環境に応答し、1階を内省的な個室群、2階を外向的な生活空間として反転させている。採光・通風条件の厳しい1階に対し、2階では越屋根とハイサイドライトによって光と風を取り込み、生活の主空間に開放性を与えた。上下階の性質の差異は、単なる機能分離ではなく、生活のリズムに応じた環境の選択肢として機能している。

空間内部では、矩形を基盤としながら曲面の壁を挿入し、空間の連続性に緩やかな揺らぎを与えている。この曲面は領域を明確に分節するのではなく、視線や動線を受け止めながら関係をにじませる境界として作用する。また、登り梁を現しとした勾配天井は、構造のリズムをそのまま空間の骨格として表出させ、光の広がりとともに奥行きのある断面構成を生み出している。

さらに、中間階や吹抜けを介して上下階は視覚的・環境的に接続され、光や気配が緩やかに伝播する。閉じる/開くといった二項対立ではなく、その中間にある関係性を丁寧に設計することで、住宅に多層的な居場所を与えている。

本計画は、特別な形式を提示するものではない。切妻、木、矩形といった普遍的な要素の中に、小さな差異を重ねることで、空間の質をわずかにずらし、日常の感覚を更新することを試みている。その変化は強く意識されることなく、暮らしの中で徐々に身体に馴染み、やがて確かな実感として立ち現れる。

そこにあるのは、強く主張される新しさではなく、日常の中に静かに潜り込み、少しずつ輪郭を持ちはじめる「なにげない新しさ」である。

所在地京都市左京区
主要用途一戸建て住宅
家族構成夫婦2人 子供2人
建築面積48.08m2
延床面積94.87m2
構造構法木造在来工法
規模三階建て
設計期間2025.1〜2025.7
工事期間2025.8〜2025.12
構造アトリエSUS4 能戸 謙介
施工嵯峨建設 木村 昭成
撮影amu 吉田 祥平